SUSTAINABILITY

Interview

ビルの全電力を再エネ由来に。サステナブルな環境創出で地域をリード

増岡 裕隆(写真左)
株式会社鉃鋼ビルディング
総務二部 部長
磯野 徹郎(写真中央)
株式会社鉃鋼ビルディング
管理営繕部 部長
篠原 純(写真右)
オークウッドプレミア東京
総支配人
東京丸の内のランドマークとして、70年以上にわたり、地域とともに発展してきた鉃鋼ビルディング。2015年の全面建て替えを経て、2021年1月にはビルの全電力を再生可能エネルギー由来へと切り替えています。鉃鋼エグゼクティブラウンジ&カンファレンスルームを運営する同社においてSDGs推進を担うお二人と、ビル内のサービスアパートメントを運営するオークウッドプレミア東京の総支配人に、サステナビリティの取り組みについて伺いました。

人・街・時をつなぐ、新たな大規模複合ビルへ

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鉃鋼ビルディングがこれまで歩んできた歴史について教えてください。
増岡
当社は1888年に広島・呉市に生まれた増岡商店を前身に、戦後間もない1949年に創業し、ビジネスセンターとして復興に貢献してきました。1951年に完成した第一鉃鋼ビルディングは地上8階・地下2階の日本初の高層ビルとなり、その3年後には全館空調システムを取り入れた第二鉃鋼ビルディングを竣工しています。

歴史あるビルとして地域とともに歩んできた中、全面建て替えを決めた目的のひとつは、より高い安全性能を目指すことでした。2015年に生まれ変わったビルでは、阪神・淡路大震災クラスの地震にも備え、地域初の中間免震構造を採用しています。
現在の鉃鋼ビルディング外観
写真提供:鉃鋼ビルディング
磯野
当時、すでに羽田空港が24時間国際空港として新たなスタートを切っており、丸の内には東京の玄関口としての役割が求められていました。ビルの建て替えには多様化する社会ニーズに応えるねらいもあり、空港へのリムジン発着所やサービスアパートメント、ラウンジ&カンファレンスルームなどを充実させ、商業エリアにもさまざまな魅力的なテナントを誘致しました。再開発のコンセプトは「人・街・時をつなぐ」です。日本と世界をつなぐ、新幹線口隣接地として東京と地方をつなぐ、長い歴史の中で過去と未来をつなぐ――いくつもの意味がそこに込められています。

――
建て替えにより、環境性能も大幅に向上されていますね。
磯野
当時考えられる限り環境に配慮したビルになったと自負しています。建設時には、再生鉄骨や再生材を積極的に使い、ビルから出た廃材は90%以上リサイクルしています。当時としてはまだ例が少なかった全館 LED 照明としたり、太陽光追尾型のブラインドの導入や地下の電気室の廃熱を利用した給湯なども、当ビルの大きな特徴です。

SDGsプロジェクトのもと、全電力の再エネ化を決断

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2021年1月には「再生可能エネルギー由来の電力100%」を実現されました。これも大規模複合ビルとして日本初※1とのこと、ここに至るまでの経緯を教えてください。
増岡
2019年に創業70周年を迎えるにあたり、当社が今後目指すべき方向性を話し合い、掲げたコーポレートスローガンが「誰もが輝きだす場所へ。」です。具体的に一企業として何ができるかを考えたとき、重要な手がかりとなったのがSDGsでした。SDGsが2030年に向けて描くのは「誰もが自分らしく、良く生きられる世界」だととらえ、それは私たちが目指す姿とも重なり合うと気づいたのです。
全社横断的な SDGs プロジェクトを立ち上げて議論を重ねる中、環境面でより高いレベルを目指していくには、調達するエネルギーや資源を見直すべき、という発想にたどり着きました。そこで上がってきた案が「再生可能エネルギーの導入」でした。
磯野
実は、電力供給元であるENEOSからは、それまでにも再エネ利用のご紹介はいただいていました。ただ、導入すれば電力コストは確実に上がります。今回あらためて検討する中でもそこがハードルとなり、「コストをかけて、今優先的にやる必要があるか」「導入するにしても100%ではなく一部にとどめるべきでは」などさまざまな意見が挙がりましたね。
増岡
最終的に100%に踏み切ったのは、「事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献する」という強い想いを社内で共有したことに加え、「環境にやさしいビル」への社会的要請が年々強まっていると感じたからです。テナントの中にはRE100※2の加盟企業様もいますし、今後そうした企業がどんどん増えれば、従来通りのエネルギー調達では入居ビルとして選ばれることはなくなります。またテナントだけでなく、今後はMICEの主催者様、サービスアパートメントやラウンジ&カンファレンスルームをご利用のお客様からも、CO2フリーを求める声は高まっていくでしょう。環境価値の向上は、コストというより先行投資として不可欠と考えました。
夜間の鉃鋼ビルディング外観
写真提供:鉃鋼ビルディング
様々な規模のMICEに対応できるカンファレンスルーム
写真提供:鉃鋼ビルディング
――
実際、どのように再生可能エネルギー由来電力を取り入れていますか?
磯野
川崎と室蘭にあるバイオマス発電所から、ENEOSが調達したCO2排出係数ゼロの電力を受電しています。川崎は木質チップ、室蘭はパーム椰子殻を燃料とし、化石燃料を使わないカーボンニュートラルな仕組みで発電しています。今回の再エネ由来電力導入により、年間では約8000トンのCO2を削減できる見込みです。
増岡
導入にあたっては、RE100の加盟窓口である日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)にもいろいろ相談に乗っていただきました。2021年1月には、当社もJCLPに賛助会員として加盟しています。
電力切り替えで1割強上がった料金については当社が負担し、テナントへの転嫁はしていません。電力は基本的なインフラである以上、当社の施策によって単価が変動することは入居企業様にとって好ましくないと考えた結果でした。
※1
鉃鋼ビルディング調べ
※2
使用電力を100%再生可能エネルギーとすることを掲げた企業が加盟する国際イニシアチブ

多様なステークホルダーとともに活動を深めていく

――
オークウッドプレミア東京では、再エネ由来電力100%導入をどのように受け止めましたか?
篠原
最初に計画を聞いたときには大変嬉しかったですね。SDGsがこのように注目される中で、再エネ由来電力100%で事業を運営するのはサービスアパートメントとしても日本初となります。ホテル業界では、毎年グローバル企業と契約条件を取り決めるRFP(Request for Proposal)を行いますが、従来はロケーションと料金との兼ね合いだった中、最近ではSDGs対応が新たな選定基準に加わってきています。今回の再エネ由来電力導入で大きなアドバンテージをいただくこととなり、感謝の気持ちでいっぱいですし、持続可能な社会づくりへの参画に向けたポジティブな思いが高まりました。
――
取り組みを通して起きた変化や、社内外の反応はいかがですか?
増岡
入居企業様からの反響は予想以上に大きいものでした。RE100加盟企業様はもちろん非常に喜んでくださいましたし、それ以外でも「全体のCO2削減量のうち、当社に当てはめるとどのくらいの削減が見込めるか」など問い合わせをいただいています。さまざまなステークホルダーとともに、大きな社会的インパクトを生み出す取り組みになったと手応えを感じています。
磯野
SDGsプロジェクトを通して社内に起きた変化も大きかったと思います。SDGsやサステナビリティは国や大企業だけの話ではなく、私たちの事業や暮らしにも密接に関わるものという意識が広がってきています。プラスチックマドラーを木製にしてはどうか、コピー用紙も再生紙にできないかといった声が自然に上がったり、マイカップの利用が進むなど、小さなことから行動を起こす社員が増えてきています。
篠原
私たちも同様で、何かできることが身近にあるのではと考えるようになりました。備品の購入時など、コストや品質はこれまでも当然意識してきたものの、「SDGsに照らし合わせてどうか」「環境負荷はどちらが低いか」という新たな視点が生まれました。現状では、環境配慮型の製品への切り替え=コストアップとなる傾向はあります。それでも、環境に配慮したサービスアパートメントであることが、お客様から選ばれる要素となっており、今後の事業成長を考えてもSDGsへの対応は欠かせません。

環境・社会に配慮した、さまざまな取り組みを展開

――
サステナビリティ推進では、再エネ由来電力100%導入以外にもいろいろな取り組みをされていますね。
増岡
はい。まず防災機能の強化は建て替え時の大きな目的としてあったため、最大10日間の電力供給をできる非常用発電設備を備えるほか、帰宅困難者の方々の受け入れ体制を整えています。常時2000人×3日分の飲食料品を備蓄していて、その一部は定期的な入れ替えのタイミングでフードバンクへと寄付しています。
磯野
館内の各フロアに「だれでもトイレ」を設置しているのも当ビルの特徴ですね。ベビーシートやオストメイト、車いすでも十分なスペースを備えるとともに、LGBTの方にもご利用いただきやすいものとしています。同じく多様性の尊重という観点では、障がいのある方に館内巡回を依頼し、気になる点をご指摘いただき、改善していくという取り組みも進めてきました。
飲食料品の備蓄倉庫
写真提供:鉃鋼ビルディング
各フロアに設置されている「だれでもトイレ」のサイン
増岡
環境面では、中水利用システムも導入しています。上水と下水の中間にあたる「中水」という考え方を持ち、館内設備や店舗の厨房の排水を中水プラントに集めてきれいにし、トイレの洗浄水などに再利用しています。また、ビル沿いの散策路では自然植生の再現にこだわりました。本来この東京の土地にはどのような植物が息づいていたのかを研究し、風土に適したシラカシやタブノキなどの樹種を選んでいます。
植栽が美しく整えられたビル外構の散策路
――
オークウッドプレミア東京ではいかがですか?
篠原
グローバル・グループ全体では、お客様と従業員の安全を守る衛生管理プログラム「オークウッドクリーン360」を展開しています。これは当初、新型コロナウイルスへの対応が目的だったのですが、不特定多数の人が触れる雑誌や新聞をすべてデジタル化したことで、紙の削減も大幅に進みました。朝食のテイクアウト用のボックスをトウモロコシ由来のコーンスターチ容器に変えたり、プラスチックストロー・マドラーの使用を止めたのも近年の新しい取り組みです。
何より、朝食のビュッフェをセットメニューに切り替え、注文を受けてからつくるようにしたことで、朝食時のフードロスがほとんどゼロになりました。これも感染対策をきっかけにしたものですが、ホテル業界では一歩先を行く取り組みになったと自負しています。
また、客室の清掃をキャンセルされた方にはギフトカードを提供しています。お客様が希望されない清掃やリネン交換を省くことで、水や電力の使用量削減につなげています。
宿泊ゲスト向けの朝食ボックス
写真提供:オークウッドプレミア東京

先進的なサステナビリティ推進で、地域の魅力を高める

――
今後に向けた考え方や、注力したい取り組みがあれば教えてください。
磯野
MICE開催時の廃棄物削減は、すでにパートナー企業とともに進めてきていますが、フードロス対策やプラスチック容器の削減など、もう一段高いレベルを目指していきたいですね。ビル全体としては、現状はリサイクル率が60%ぐらいで、生ごみと可燃ごみをどうするかが課題になっています。まずは廃棄物の排出を減らすことが大切であり、テナントの協力を得ていくことも欠かせません。また、電気自動車をご利用の方が増える中、急速充電器の設置も求められてきています。インフラはビルの建て替え時にすでに整えているので、今後本格導入を検討していきたいです。
篠原
オークウッドプレミア東京では、現状まだお客様にペットボトルで飲料水を提供していますので、まずはそこからだと思います。給水器の設置や紙パックでのご提供といった形で見直しが進めば、年間で相当なプラスチック消費量を抑えられます。その先には、レストラン食材の地産地消も積極的に進めたいですね。例えば、関東圏の農家・畜産家が育て、CO2を排出しない電気自動車で運ばれてきた食材を使い、お客様に満足いただける食事が提供できればすばらしいです。
増岡
SDGsプロジェクトを推進してくる中で実感したのは、「サステナビリティの取り組み=事業そのもの」ということです。私たちの施設をご利用いただくことがサステナブルな社会につながる、というより高いレベルを目指さなければならないのだと思います。大丸有エリアがサステナビリティでも先進性を発揮し、魅力ある地域となっていくよう一施設として貢献していきたいです。
篠原
全く同感で、今回鉃鋼ビルディングさんが「電力の100%再エネ化」という話題をつくってくれたことで、新たな良い潮流が生まれてきています。これを機に、さまざまな面でプラスの方向に動いていければと思っています。