SUSTAINABILITY
Interview
ラグジュアリーと持続可能性の両立へ。日本初のアースチェック認証取得
山下 淳二郎
ザ・ペニンシュラ東京
執行役員 総支配人付 総務・渉外部長
ザ・ペニンシュラ東京
執行役員 総支配人付 総務・渉外部長
「持続可能なラグジュアリー」をCSRテーマに掲げる、ザ・ペニンシュラホテルズ。日本拠点であるザ・ペニンシュラ東京でも、2007年の開業以来サステナブルなホテル運営を目指し続け、日本で初めて観光業における環境管理認証機関アースチェックのゴールド認証を取得しています。さまざまな先駆的な取り組みについて、執行役員の山下淳二郎さんにお話しいただきました。
時代に合わせ、社会・環境と共生していく
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ザ・ペニンシュラグループでは、「持続可能なラグジュアリー」をCSRテーマに掲げられています。この背景やホテルグループとしての考え方について教えてください。
山下
まず前提としてあるのが、もともと私たちのグループはビジネスのすべてにおいて長期的視点を重視しているということ。親会社・香港上海ホテルズ社はカドゥーリー家というファミリーオーナーの会社で、1866年の創業以来、一族が代々事業を継承してくる中で、その傾向は強く表れてきています。日本進出にあたっても、理想的な立地を得るまでに20年以上の歳月をかけたほど。現在世界で10のホテルを持ちますが、いずれもその土地で100年、200年と長く営業していきたいというのがグループの願いであり、そのためには時代に合わせて、社会・環境と共生していくことが欠かせません。
本社では2007年にCSRコミッティーを立ち上げ、2014年からは経済・社会・環境面で50余りの目標を掲げた「Sustainable Luxury Vision 2020」をグループ全体で展開してきました。この実践にあたっては、全拠点でホテルマネージャーが責任者を務めていることでも、私たちの本気度を見ていただけると思います。ラグジュアリーであることと持続可能性の両立は、一見難しいテーマに感じられるかもしれません。しかし、取り組みを通して私たちが得てきた確信は「両立できる」なのです。
本社では2007年にCSRコミッティーを立ち上げ、2014年からは経済・社会・環境面で50余りの目標を掲げた「Sustainable Luxury Vision 2020」をグループ全体で展開してきました。この実践にあたっては、全拠点でホテルマネージャーが責任者を務めていることでも、私たちの本気度を見ていただけると思います。ラグジュアリーであることと持続可能性の両立は、一見難しいテーマに感じられるかもしれません。しかし、取り組みを通して私たちが得てきた確信は「両立できる」なのです。
アースチェックのゴールド認証を取得
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2020年には環境管理認証機関アースチェック※より、ゴールド認証を取得されていますね。2014年のブロンズ認証、2015年のシルバー認証の取得に続き、いずれも日本初となっています。
山下
「持続可能なラグジュアリー」に向けた指針として、グループが採用したのが観光業で世界的な基準とされているアースチェック認証でした。日本初となるだけに、参考にできる国内の他社事例がなく、取得を目指していく上では試行錯誤の連続でしたね。まずは、施設管理部門が中心となり、ホテル運営のすべての数値を見える化。その上で、温室効果ガス排出量やエネルギー効率・省エネなど10の領域でのアクションプランを定め、全社で取り組んできました。
館内の照明は、バックオフィスはもちろん、一部はお客様に見えるところを含めてLEDに変更しました。厨房の排水を処理し従業員用トイレの洗浄水として再利用したり、生ごみを肥料に変える取り組みもしています。冷却塔の全てに薬注処理設備を実装し冷却水の入れ替えの回数を減らしたり、全水栓の吐出量を最小限に調整したり、地道な工夫で節水と水質改善向上の両立を実施して、10年前と比べ稼働率が18%増えたにも関わらず年間454t(24%)の節水を実現しました。「いかにお客様に影響を出さず、数値を改善するか」という視点で、施設管理チームが非常にがんばってくれました。
消費電力の削減については、2011年の東日本大震災による電力危機を機に、ある程度進んでいたことが認証取得を後押ししてくれました。「Save Energy for Japan」というスローガンのもと、スタッフの夏服をポロシャツにし、バックオフィスの空調利用に制限を設けたことで、大きな節電効果を上げました。当時は「ラグジュアリーホテルなのに、スタッフがポロシャツなんて」という否定的な声をいただくこともありました。しかし、私たちの活動の本意を伝えながら継続してくることで、最終的にはペニンシュラの新常識として定着できたと考えています。(現在は、ポロシャツは行っておりません)
館内の照明は、バックオフィスはもちろん、一部はお客様に見えるところを含めてLEDに変更しました。厨房の排水を処理し従業員用トイレの洗浄水として再利用したり、生ごみを肥料に変える取り組みもしています。冷却塔の全てに薬注処理設備を実装し冷却水の入れ替えの回数を減らしたり、全水栓の吐出量を最小限に調整したり、地道な工夫で節水と水質改善向上の両立を実施して、10年前と比べ稼働率が18%増えたにも関わらず年間454t(24%)の節水を実現しました。「いかにお客様に影響を出さず、数値を改善するか」という視点で、施設管理チームが非常にがんばってくれました。
消費電力の削減については、2011年の東日本大震災による電力危機を機に、ある程度進んでいたことが認証取得を後押ししてくれました。「Save Energy for Japan」というスローガンのもと、スタッフの夏服をポロシャツにし、バックオフィスの空調利用に制限を設けたことで、大きな節電効果を上げました。当時は「ラグジュアリーホテルなのに、スタッフがポロシャツなんて」という否定的な声をいただくこともありました。しかし、私たちの活動の本意を伝えながら継続してくることで、最終的にはペニンシュラの新常識として定着できたと考えています。(現在は、ポロシャツは行っておりません)
※
1987年にオーストラリアに設立された、観光業に携わる企業やコミュニティの持続可能性を認証する専門機関。その代表的なプログラムであるアースチェック認証は、取り組み年数に応じて3段階(ゴールド、シルバー、ブロンズ)の基準値が設定され、現在70カ国以上で導入されている。
海の生態系を守るための、フカヒレ提供中止
――
もうひとつの特徴的な取り組みとして、2012年よりフカヒレ料理の提供を中止されています。この背景についてもお聞かせください。
山下
フカヒレの提供中止は、グループ全体として決定したことで、サメの乱獲をなくし、海の生態系を守ることが目的でした。ザ・ペニンシュラホテルズは広東料理の本場・香港が発祥であり、フカヒレはお祝いやハレの席に欠かせない食材です。当然お客様からは厳しいお言葉をいただきましたし、実際に接待でのご利用は一時かなり減りました。当初は現場のスタッフにもとまどいがあったと思います。
ラグジュアリーホテルでフカヒレの提供を中止したのは私たちが初めてです。SDGsが浸透してきた今なら、「目標14『海の豊かさを守ろう』に貢献するため」と言えば一定の理解を得られると思いますが、当時はそうではありません。「フカヒレをやめる? こんな人気の食材をなぜ?」という反応が一般的でした。しかし、「アジアで最も歴史あるホテルグループとして、私たちがやるからこそ意義があり、賛同して後に続いてくれる施設もあるはず」というのがグループの考え方で、強い意志を持って推し進めてきました。
フカヒレはわかりやすい例ですが、「持続可能な調達」という点では、これが特別なケースではありません。ホテルの仕入部では、生態系の保全や環境配慮のほか、人権なども含んだ調達のガイドラインを決めていて、それに合意している取引先からのみ仕入れを行っています。
ラグジュアリーホテルでフカヒレの提供を中止したのは私たちが初めてです。SDGsが浸透してきた今なら、「目標14『海の豊かさを守ろう』に貢献するため」と言えば一定の理解を得られると思いますが、当時はそうではありません。「フカヒレをやめる? こんな人気の食材をなぜ?」という反応が一般的でした。しかし、「アジアで最も歴史あるホテルグループとして、私たちがやるからこそ意義があり、賛同して後に続いてくれる施設もあるはず」というのがグループの考え方で、強い意志を持って推し進めてきました。
フカヒレはわかりやすい例ですが、「持続可能な調達」という点では、これが特別なケースではありません。ホテルの仕入部では、生態系の保全や環境配慮のほか、人権なども含んだ調達のガイドラインを決めていて、それに合意している取引先からのみ仕入れを行っています。
お客様を巻き込んだフードドネーションプログラム
――
2021年には、開業から15年目を迎えます。地域社会との関わりで、大切にしている活動はありますか?
山下
ひとつには、土地の文化・歴史をお客様に体験していただく「ザ・ペニンシュラアカデミー」が挙げられます。世界10都市のすべてのザ・ペニンシュラホテルズで提供していますが、プログラム内容は各地の特色を反映して全く異なります。ザ・ペニンシュラ東京では、個性豊かな店がひしめく「有楽町ガード下」をご案内するウォーキングフードツアーなどが非常に人気です。ツアーガイドが日本文化やテーブルマナーまでしっかりとご説明し、海外からのお客様にも食を超えた楽しさを味わっていただけます。
また2020年には、10ホテルすべてで「We Meet Again」と題したプロジェクトに取り組みました。コロナ禍による営業自粛を経て、再び皆様にお会いできる喜びと、地域社会への恩返しの気持ちを込めたもので、さまざまな特典つきの宿泊プラン「ザ・ペニンシュラ東京から8つのLoveの贈り物」と、フードドネーションプログラムを組み合わせました。
フードドネーションでは、お客様が直営レストランで1食お召し上がるのにつき、1食分を寄付。チャリティパートナーであるセカンドハーベスト・ジャパンとハンズオン東京を通して、食糧を必要とするいろいろな施設にお弁当をお届けしました。たくさんの社員がキッチンを手伝ったほか、「ザ・ペニンシュラ東京から8つのLoveの贈り物」で提供する8つの体験プログラムのうち、「社会貢献」を選択されたお客様にもお弁当の梱包などをお手伝いいただきました。新たな試みでしたが、なかなか得にくいボランティア体験として好評をいただき、手応えを感じています。
また2020年には、10ホテルすべてで「We Meet Again」と題したプロジェクトに取り組みました。コロナ禍による営業自粛を経て、再び皆様にお会いできる喜びと、地域社会への恩返しの気持ちを込めたもので、さまざまな特典つきの宿泊プラン「ザ・ペニンシュラ東京から8つのLoveの贈り物」と、フードドネーションプログラムを組み合わせました。
フードドネーションでは、お客様が直営レストランで1食お召し上がるのにつき、1食分を寄付。チャリティパートナーであるセカンドハーベスト・ジャパンとハンズオン東京を通して、食糧を必要とするいろいろな施設にお弁当をお届けしました。たくさんの社員がキッチンを手伝ったほか、「ザ・ペニンシュラ東京から8つのLoveの贈り物」で提供する8つの体験プログラムのうち、「社会貢献」を選択されたお客様にもお弁当の梱包などをお手伝いいただきました。新たな試みでしたが、なかなか得にくいボランティア体験として好評をいただき、手応えを感じています。
自分たちの活動が、誰かの喜びにつながっていく
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「We Meet Again」に限らず、これまでにも年間を通して、さまざまなチャリティ活動を実施されていますね。代表的なものをご紹介ください。
山下
ハンズオン東京との協働では、「We Meet Again」に先がけ10年近く続けてきた「おにぎりプロジェクト」があります。月に2回、社内のボランティアが集まって皆でおにぎりを握り、食糧を必要とされる方々へお届けする取り組みです。部署を超えた交流の場として社員にも人気があり、毎回30分ほどのおにぎりづくりには大勢が参加します。おにぎりを届けた先からお礼の手紙をいただいたりもして、自分たちの活動が人の喜びを生み出す実感を持てます。
また毎年10月には、ピンクリボン活動啓発キャンペーンとして、ピンクをテーマにしたアフタヌーンティーセットなどの売上の一部を日本乳癌検診学会などに寄付してきました。フェスティブシーズンには、アフタヌーンティーやオーナメントの売上の一部を全国学校図書館協議会に寄付しています。「困っている人のために何かしたい」と考える方は多い中、食事やショッピングを通して自然に社会貢献につながる機会の提供は、私たちとしても大切にしたいところです。
2020年8月には、チャリティラン「Great TOKYO Odyssey」に参加しました。これは、DMO東京丸の内事務局からお声がけいたただいたものですが、社内で参加希望者を募ったところ、大勢集まりすぎて人数をしぼったほど。最終的には20名ほどが丸の内・有楽町を走り、たすきをつなぎました。MICE業界が一丸となって東京という街を世界にアピールする取り組みで、しかも参加費は非営利団体に寄付されるとのこと、参加しない理由がありません。こういうイベントは今後も続いてほしいですし、当社としても積極的に関わっていきたいと思っています。
また毎年10月には、ピンクリボン活動啓発キャンペーンとして、ピンクをテーマにしたアフタヌーンティーセットなどの売上の一部を日本乳癌検診学会などに寄付してきました。フェスティブシーズンには、アフタヌーンティーやオーナメントの売上の一部を全国学校図書館協議会に寄付しています。「困っている人のために何かしたい」と考える方は多い中、食事やショッピングを通して自然に社会貢献につながる機会の提供は、私たちとしても大切にしたいところです。
2020年8月には、チャリティラン「Great TOKYO Odyssey」に参加しました。これは、DMO東京丸の内事務局からお声がけいたただいたものですが、社内で参加希望者を募ったところ、大勢集まりすぎて人数をしぼったほど。最終的には20名ほどが丸の内・有楽町を走り、たすきをつなぎました。MICE業界が一丸となって東京という街を世界にアピールする取り組みで、しかも参加費は非営利団体に寄付されるとのこと、参加しない理由がありません。こういうイベントは今後も続いてほしいですし、当社としても積極的に関わっていきたいと思っています。
地域とともに、持続可能なホテル運営を目指す
――
今後に向けて注力されたい取り組みはありますか?
山下
2021年を迎え、グループでは2030年を目指した「Sustainable Luxury Vision 2030」プロジェクトがスタートしています。同じく2030年を目標年とするSDGsを意識しながら、グループで足並みを揃えて活動を深化させていきます。アースチェックのゴールド認証の維持も欠かせません。こうした認証取得は、そのとき限りで終わっては意味がなく、長く高いレベルを守り続けることで私たちの姿勢を示していきます。
企業に対し、「サステナビリティを意識した事業を営んでいるか」をチェックする社会の目は年々強まっていて、その波は次第にMICE業界にも押し寄せてきています。日本でいち早くアースチェック認証を取得した当社の強みは、今後ますます活きてくるものと考えています。
SDGsへの取り組みを通し、大丸有の発展に貢献していくことも大切です。同じエリアの他企業と手を取り合えば、当社単体での「点」の活動を「面」に広げていくこともできるでしょう。私たちのホテルには多様な部門があり、いろいろなエキスパートがいるので、幅広い分野で協働の可能性が広がっていると思います。人財という最大の資産を活かしながら、新たな良い方向を見出していきたいですね。
企業に対し、「サステナビリティを意識した事業を営んでいるか」をチェックする社会の目は年々強まっていて、その波は次第にMICE業界にも押し寄せてきています。日本でいち早くアースチェック認証を取得した当社の強みは、今後ますます活きてくるものと考えています。
SDGsへの取り組みを通し、大丸有の発展に貢献していくことも大切です。同じエリアの他企業と手を取り合えば、当社単体での「点」の活動を「面」に広げていくこともできるでしょう。私たちのホテルには多様な部門があり、いろいろなエキスパートがいるので、幅広い分野で協働の可能性が広がっていると思います。人財という最大の資産を活かしながら、新たな良い方向を見出していきたいですね。