SUSTAINABILITY

Interview

大丸有の豊かな自然を次世代につなぎ、
「緑の魅力」を発信するまちづくり

松井 宏宇 (写真左)
エコッツェリア協会(一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会)
環境・R&Dディレクター
見立坂 大輔 (写真右)
三菱地所
サステナビリティ推進部
プロモーションユニット統括

皇居の森に近い立地から、豊かな自然を引き継ぐ大手町・丸の内・有楽町(以下、大丸有)エリア。その恵まれた環境を未来に受け継ぎ、緑の魅力をより多くの人に発信していくため、それぞれの強みを活かした活動に取り組むのが、総合デベロッパーの三菱地所と環境共生型のまちづくりを担うエコッツェリア協会です。エコッツェリア協会が運営するユニークベニュー「3×3Lab Future」(大手門タワー・ENEOSビル)にて、二人のキーパーソンに話を伺いました。

皇居の緑とゆるやかにつながる大丸有の自然環境

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大丸有エリアを取り巻く自然環境をどのように感じていますか?
見立坂
大丸有は、主要ターミナルである東京駅と皇居に挟まれたエリアです。東京駅周辺にはビル群が広がる一方、皇居は都心で貴重な自然の宝庫となっており、その両極端な環境の間にあります。そのため、皇居に息づく生き物がこちらにも染み出してきていて、都心でありながら絶滅危惧種のトンボが見つかったり、冬にはユリカモメが飛来したりと、独特の生態系が広がっています。
松井
「染み出す」というのは私も同じように感じています。皇居の緑とゆるやかにつながることで、東京都心でありながら豊かな自然を感じられるのがこのエリアの特長です。私自身、大丸有の一ワーカーとして、何気ない窓からの景色やちょっと外に出るだけで自然に親しめる環境に魅力を感じています。
見立坂
大丸有の中でも、この3×3Lab Futureがある大手門タワー・ENEOS ビルと、隣接する大手町パークビルは特に恵まれた環境といえます。2棟間には約3,000㎡の緑地「ホトリア広場」を設けており、名前の通り「皇居外苑濠のほとり」の広場としてエコロジカルネットワーク※1の拠点になっています。植栽にも皇居の植生を反映させるなど、「人と生き物の交流の場」をテーマにした空間づくりが認められ、ホトリア広場は「いきもの共生事業者認証」(ABINC認証)※2を受けています。
※1
野生生物が生息・生育する様々な空間がつながる生態系のネットワークのこと。
※2
一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)による認証制度。
 
ホトリア広場

皇居のお濠の生き物を再生する「ほりプロジェクト」の挑戦

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三菱地所では、2018年よりお濠の生物多様性を守る「濠プロジェクト」に取り組まれています。この背景や実際の活動内容について教えてください。
見立坂
環境省との連携のもと開始した濠プロジェクト※3は、皇居のお濠にもともと生息していた生き物の再生にチャレンジする、民間企業初の取り組みです。お濠は1965年に多摩川からの水流が途絶えて以降、水質悪化が問題になっており、当社はこれまでにも濠水浄化施設を大手門タワー・ENEOSビルの地下に設置するなど、水辺環境の改善に貢献してきました。濠プロジェクトはさらに一歩踏み込んだ取り組みといえ、絶滅危惧種となったお濠の水草や小型の生き物、泥を採取し、当社のビル屋上やホトリア広場のビオトープ※4で育成しています。
松井
私も最初に濠プロジェクトを知ったときには、「希少な種を再生し、次世代につないでいく」という挑戦にワクワクしました。取り組み自体ユニークですが、いろいろな立場の人・組織を巻き込んでいく取り組み方もまた価値あるものです。三菱地所一社ではなく、行政やNGO、専門機関とも連携されており、お濠での採取活動やホトリア広場への導入にあたっては、一般の方々も多く参加されていますね。
見立坂
おっしゃる通りで、大丸有で働くワーカーの皆さんやその家族を中心に、幅広い世代にご参加いただきました。このエリアに所有ビルの多い三菱地所は、さまざまな面で皆さんとの関わりを持ちます。プロジェクトを通し、より多くの人に都市の生態系や自然環境に興味を持っていただけるよう、情報発信を強めるねらいもありました。
濠プロジェクトの様子
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絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト(レッドリスト)に記載された水草の再現にも成功されていますね。
見立坂
採取した泥をホトリア広場の実験区で管理した環境下に置いたところ、休眠していた種が発芽し、今はお濠では生息していないミゾハコベという水草が復活しました。それ以外にも、泥の中には東京23区内でレッドリストに記載がある希少な水草3種が含まれていました。
松井
休眠している種子は眠っている期間が長く続くと、いずれ死んでしまいます。いったん場所を移し、発芽できるような環境を整えるというのは非常に大切なことだったと思います。
見立坂
現在はビオトープで安定的に育成できているものの、当初は大変でしたね。まず泥の中に本当に種子が含まれているかどうかも分からない状態からのスタートだったため、絶滅危惧種が見つかったというのは本当に幸運なことです。このようなデリケートな草種がどのような環境を好むのかわからず、pHや水温の管理、水流の調整など、すべてが手探りでした。
松井
3×3Lab Futureでは、実際に皇居のお濠で生育する水草を導入しお濠を模した水槽を展示しており、ホトリア広場のビオトープとあわせて、お濠の生態系について幅広い人に伝えられる場となっています。取り組みの意義を正しく伝えることができるためにも実際に生き物が見られることが重要だと思います。
※3
濠プロジェクトは、環境省との「皇居外苑の自然資源活用に関する協定」のもと、公益財団法人日本自然保護協会、千葉県立中央博物館、国立環境研究所気候変動適応センターとともに活動を推進。
※4
工業の進展や都市化などによって失われた生態系を復元し、本来その地域にすむ生物が生息できるようにした空間のこと
3×3Lab Futureに設置されている水槽展示

大丸有の緑の魅力を見える化するWEBサービス「TOKYO OASIS」

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エコッツェリア協会では、大丸有の快適な外歩きのためのWEBサービス「TOKYO OASIS」のサービス運営に関わっています。これは具体的にどのような取り組みですか?
松井
大丸有では、濠プロジェクトをはじめ、エリア全体でハード・ソフトの両面から緑を育むまちづくりを目指しており、TOKYO OASISはその緑の魅力を「快適性」の切り口から見える化するサービスです。大丸有エリアで快適に過ごせる場所をOASIS SPOTとして掲載し、その場所までのルートをスマートフォンで気軽に検索できることで、快適な外歩きを提案しています。2020年夏より試験的にスタートし、実際のサービス利用者の声をもとに新たな機能を追加して、2021年7月に社会実験を再始動しました。5カ国語対応、かつ登録・インストールなしにすぐに利用でき、インバウンドで一時的に滞在する方々にも利用しやすいサービスとなっています。
見立坂
TOKYO OASISはもともとエコッツェリア協会が開発した大丸有エリアの環境情報等をデータベース化した情報プラットフォーム「大丸有環境アトラス」をベースに、時間ごとの建物や街路樹の日陰情報を見える化したものでしたね。今回のバージョンアップでは、エリア内の座れる場所や一本一本の樹木情報などまで盛り込んでいるのが特徴かと思います。
松井
開発にあたり人々の「快適性」への多様なニーズにどのように応えていくのかに気を配りました。OASIS SPOTまで日陰・日なた・最短の3ルートを用意したのもその一例です。当初は「涼しさ」を切り口に夏の日陰ルートを主眼に置いたものの、長時間の冷房で冷え切った後は夏でも日なたを歩きたくなるなど、快適性の意味は同じ人でも一定ではありません。一人ひとりがサービスを選択し利用することでその人に合った快適性を見つけてほしいと考えています。なお、OASIS SPOTとして先ほど話題にあがったホトリア広場の他、くつろげる場所やオープンスペースや公園などが登録されています。
見立坂
ホトリア広場は、ちょっとした散策や休憩、ランチタイムなど、いろいろな人が思い思いの使い方をする憩いの場になっています。人にとっても生き物にとっても快適な環境はまさにホトリア広場が目指すところです。
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まちづくりに緑が果たす役割についてどのように考えますか?
松井
樹木などの緑そのものだけでなく、緑がつくる環境や空間すべてが緑の魅力なのだと思います。TOKYO OASISでは、樹木がつくる陰も日陰ルートに反映していたり、エリア内の樹木約3,500本を一本一本調査することで樹種や樹高などとともに、CO2吸収量、炭素貯蔵量を紹介したりしています。背景には、サービス利用者に樹木の働きを知っていただくことで、大丸有の魅力のひとつである緑への愛着を深めてもらいたいという思いがあります。
見立坂
脱炭素は、緑が果たす役割として極めて重要ですね。その観点から、当社でも新たな取り組みとして、街路樹を活かしたバイオマス発電事業を始めています。これは、手入れのために剪定した街路樹の枝をバイオマス発電の燃料として再利用することで、地域循環型の再生エネルギー発電を目指すもの。TOKYO OASISで紹介されている樹木の剪定枝も、今後こうしたところに活かしていく予定です。大丸有は、東京23区で他に例がないほど自然との共生が進んだ街であり、緑はさまざまな側面で人々のWell-Beingの要素になっていると感じます。日常のシーンでも、豊かな植栽により人々が街に受ける印象は大きく変わるでしょう。
松井
全く同感です。大丸有はMICEで訪れる方も多いエリアで、そうした場合、会議場の中で過ごす時間が多いかもしれません。それでも私たちとしては外歩きの時間を持ち、エリアの魅力を味わってほしいですし、緑を身近に感じてリラックスできる環境は、会議やイベントの円滑な進行にも役立つものと思っています。是非、MICE参加者にも大丸有の外歩きでリフレッシュしていただきたいですね。

人も自然もいきいきと輝く未来を目指して

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TOKYO OASIS、濠プロジェクト、それぞれの今後の展開について教えてください。
松井
TOKYO OASISの社会実験は始まったばかりです。今後も快適な外歩きとは何かを考えるためさらに利用者のみなさんの意見を聞きながら、まちと人をつなげ、新たなまちの魅力や価値の発見につなげていきたいと考えています。例えば、四季の移ろいを映したエリアの魅力を見える化して、この時期この場所に行くと花の香りがする、渡り鳥が見られる、などがサービス提案できるといいですね。
見立坂
濠プロジェクトで今後目指したいのは、当社の他の開発案件でも、ホトリア広場のような空間を増やしていくことです。ビルごとに立地条件や開発コンセプトが異なるため、最適解を見つけるのは簡単ではありませんが、多様な生き物を次世代に残していくための手段として模索しています。さらに当社だけではなく、エリア内の他の事業者とも連携し、そうした空間づくりに取り組むことができれば理想的です。
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サステナビリティの取り組みを通じ、大丸有をどのように盛り上げていきたいですか?
松井
エコッツェリア協会では、緑の魅力を発信する取り組みとしてTOKYO OASIS以外にも「大丸有シゼンノコパン」というネイチャープログラムで、自然の新しい見方を通して、人と自然、人と人とがつながり合える機会を提供しています。また、丸の内産のハチミツを採蜜する「丸の内ハニープロジェクト」の実行委員会に参画し、養蜂からハチミツの商品化、販売までを通じたエリアの活性化及びコミュニティ形成に取り組んでいます。これらのさまざまな活動を通じ、大丸有が人にも自然にも配慮され、そのつながりが見える街となればうれしいです。そして、行政や企業・団体等の多様な主体と協力連携しながら皇居の緑とつながる大丸有エリアがさらにその周辺エリアへと緑をつなぐことで、大丸有エリアに留まらない緑の質と量を広げる活動を目指していきたいと考えています。
見立坂
サステナビリティ推進にはいろいろな切り口がありますが、究極的に目指すのは、人も、組織も、樹木も、生き物も、あらゆる主体がいきいきと過ごせる状態を生み出すことだと思っています。そこに向かって一歩一歩できることを着実に進めていきたいです。
「大丸有シゼンノコパン」でのホトリア広場探索の様子