SUSTAINABILITY

Interview

廃棄削減と素材循環をめざしながら、まちの物語を紡ぐ。
丸の内発祥のアップサイクルブランド “Ligaretta”

大谷 典之(写真左)
NPO法人
大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)
事務局長
長谷川 春奈(写真右)
NPO法人
大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)
事務局

大丸有エリア(※1)の地域資源を活用しながら、“賑わいの創出” “環境改善” “コミュニティの形成”をテーマにさまざまな活動を推進している「Ligare(リガーレ)」(NPO法人大丸有エリアマネジメント協会)。大丸有エリアにおいて都心型エリアMICEの誘致推進を行うDMO東京丸の内の事務局もリガーレが担っています。
2002年に法人設立してから20周年を記念し、大丸有エリアで掲出されたバナーフラッグなど、まちでの役割を終えたものを再生し、新たにまちへと循環させるアップサイクルブランド「Ligaretta(リガレッタ)」を立ち上げました。MICEとの連動も視野に入れたユニークな取り組みについて、二人のキーパーソンに話を伺いました。

※1
大手町・丸の内・有楽町エリアの総称

すべては、まちの人々との緩やかなつながりから生まれた

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『Ligaretta』誕生のきっかけや目的、背景にあるコンセプトについてお聞かせください。
長谷川
実を言うと、社内での何気ない雑談が始まりでした。丸の内仲通りを彩るバナーフラッグ(※2)をはじめ、大丸有エリア内で掲出される広告物は、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり懇談会で定めた景観ルールに基づく審査を経ており、エリア内の景観にふさわしい素敵なデザインのものばかりです。バナーフラッグに使用されているスエードやメッシュなど、素材の寿命は6~10年と言われていますが、掲出期間を終えたものは、いずれ廃棄される運命にありました。2年前のある日のこと、スタッフ同士で雑談していた時に、「素敵なデザインや素材を有効活用できる、良い方法はないかな?」と話題に上がったんですね。まさかブランドを立ち上げるとは思わなかったのですが、これをきっかけに、バナーフラッグの活用方法について頻繁に話し合うようになりました。

そして、さまざまな方たちに、自分たちの想いやアイデアを伝えていく中で、デザイナーの方々をご紹介いただく機会がありました。私たちの想いに共感してくださり、「掲出を終えたバナーフラッグの素材を使って、試しに何か作ってみましょうか?」と話してくださったんです。思い描くイメージに対してご提案をいただいたり、修正を加えたり、細かなやりとりを重ねた末、最初の試作品となるポーチやネックストラップなどのグッズが誕生しました。実は、今日私が履いているスカートもアップサイクル商品としてサンプルで作ったものです。愛着を感じますし、着回しも色々できて気に入っています。
※2
リガーレは大丸有エリアにおけるバナーフラッグなどのエリアマネジメント広告の掲出手続きを担っています
大谷
それらのグッズを大丸有エリア内で開催されるイベントのノベルティとして配布したり、試験的に期間限定で販売するなどして、少しずつまちの人々に使っていただくようになりました。好評をいただくと共に、私たちの活動に共感し、協力してくださる方がどんどん増えていきました。大変嬉しく、手応えを感じる中で、より多くの人に知ってもらい、使っていただきたいという想いが芽生え、周りの方々の協力を得て、自然な流れでブランドを立ち上げることになった次第です。
長谷川
Ligarettaは、まちの人々との緩やかなつながりを通じて生まれた、まち発祥のアップサイクル(※3)ブランドです。ブランド名の由来としては、リガーレをブランド名にできたらというところから、新しいライフサイクルをまちで楽しむ女性、アップサイクルの服を着てまちを軽やかに楽しむ女性をイメージして命名しました。「リガーレがやっているリガレッタね」と想像しやすいこともあり、音の響きも含め愛らしい感じが、覚えていただきやすいようです。
Ligarettaでは、廃棄削減と素材循環を目的とし、エリア内で掲出されたバナーフラッグやイベントで使用した素材など、まちでの役割を終えたものを洋服や小物などとして再生し、新たにまちへと循環させていくことを目指しています。大丸有エリアで廃棄されていくものを「まちの物語が沁み込んだ素材」として捉え、廃棄量を減らすだけではなく、「まちの物語をつないでいくこと」も大切なコンセプトにしています。
丸の内仲通りに掲出されたフラッグ
素材のフラッグと試作したノベルティの一部
大谷
折しも、ブランドを立ち上げる話が具体化したのは、リガーレが法人設立20年を迎えた2022年のことでした。大丸有エリアのまちづくりにおいて、リガーレが大切にする「古き良きものの継承」という価値観を体現するLigarettaを、次の20年の豊かなまちづくりを見据えた新たな取り組みの一つとして、このまちを起点に発信していくこととなりました。
※3
廃棄素材からデザインやアイデアによって別の新たな製品などに作り変え、付加価値を与えること。

Ligarettaの魅力を輝かせる、クリエイターたちとの融合

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ブランドの立ち上げ前から、エリア内のパートナー企業をはじめ、さまざまな方たちとのユニークな連携を深められていますね。
大谷
先ほどお話したデザイナーの方は、「Paper Parade」というデザイン会社を運営しながら、デザインやアートの領域を軸にサステナブルなものづくりに取り組まれています。ファッションディレクターをはじめ、彼らの仲間もチームに加わってくださり、ブランド名やロゴ、ブランドストーリーなど、Ligarettaの世界観を一緒に作り上げていきました。コンセプトムービーのモデルは、ダンサーや女優など幅広く活躍するアオイヤマダさんが快く引き受けてくださり、ヘアメイクアーティストとして著名な冨沢ノボルさんが、ビジュアルを手掛けてくださいました。

この経験を通じて、クリエイティブな才能を持つ多様な方たちと、私たちのようなビジネスゾーンの人間が手を携え、お互いの強みがうまく融合した時、企画やプロダクトは研ぎ澄まされ、より魅力的になるということを初めて知りました。アーティストやクリエイターの持つ力のすごさを実感して、心から感動しましたね。それは、ブランドの根底に流れるストーリーを具現化する力であり、人を引き込む力でもあります。
長谷川
洋服や小物など、一つのモノができあがるまでには幾つもの工程があります。バナーフラッグは、屋外の天候にさらされていたため、まず洗浄することから始まります。洗浄業者の方をはじめ、Paper Paradeさんや手作業で一点ずつ縫製してくださる桐生の職人さんなど、ものづくりの面においても、プロフェッショナルの方々にお力添えいただいているおかげで形にすることができています。
Ligarettaの展示風景
Ligarettaのビジュアル
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ブランドを立ち上げるにあたって、苦労された点、工夫された点などありますか?
長谷川
素材集めは、課題の一つでした。バナーフラッグは広告媒体ですので、その素材を使うためには、クライアント企業の承諾を得ることから始まります。了承いただいたうえで、素材を再生するためには、もう一つクリアしなくてはならない課題があります。というのも、バナーフラッグに施されたデザインは知的財産なので、そのまま使うとデザイナーの権利などの問題に関わってくるからです。そのため、Ligarettaの製品に使用するフラッグは、素材の表面上にシークレット地紋と呼ばれる黒い模様を施すことによって、元のデザインをカモフラージュし、見えなくすることで知的財産を保護しています。
大谷
まちづくり法人であるリガーレが、ブランドを立ち上げるのは初めてのことでしたが、事業化していくにあたって解決策が見いだせないというような大きな課題に直面することはなかったです。その理由には、このプロジェクトに参画した社内メンバーの誰もが、新規事業の立ち上げを経験してきたからだと思っています。法務的な手続きや骨太な収支計画を作ることに関しても、メンバーそれぞれが持つ専門性でクリアすることができました。

この夏、商品販売を本格的にスタート

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2023年2月に開催されたMICE「第7回サステナブル・ブランド国際会議2023」では、Ligarettaのブースを出展されました。来場者の反響はいかがでしたか?
長谷川
Ligarettaのトップスとスカート、コートのほか、トートバッグやポーチなどの小物を、アップサイクルの過程が分かるように、バナーフラッグの現物と共に展示しました。開催期間中は、年代や属性もさまざまなお客様から、今後の商品展開につながる貴重なご意見をいただきました。

最も印象的だったのは、「人前に立つ時に羽織れる、襟なしジャケットやシャツがあれば、ぜひ欲しいです!」と具体的かつ熱く語ってくださった男性でした。また、「素材自体の販売は可能か」、「カーテンなどのインテリアの布地として使えたら嬉しい」といったご意見もありました。自分たちでは気づけなかったところに需要があることを知り、大変勉強になりました。
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続く3月には、丸の内・有楽町をはじめ、都内6エリアで同時開催された国内最大級のファッション&デザインの祭典『TOKYO CREATIVE SALON 2023』にも出展されています。
大谷
実は、このイベントへの出展も、まちの人とのつながりを通じて実現したものです。リガーレで一緒にお仕事させていただいている関連会社の方が、「素晴らしい取り組みなので、Ligarettaをぜひ紹介して欲しい」と主催者の方に掛け合ってくださったんです。大丸有エリアにあまり馴染みのなかった若い世代の方にもブランドを知っていただける貴重な機会となり、ありがたいかぎりでした。
「第7回サステナブル・ブランド国際会議2023」での展示の様子
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今年、Ligarettaの商品販売を本格的にスタートされるそうですね。
大谷
これまでトートバッグなどのノベルティとしてアップサイクルする活動を行なってきましたが、今後はアパレルラインの商品を拡充していきたいと考え、7月後半から丸の内仲通りで開催される「Marunouchi Street Park」(※4)で、Ligaretaのポップアップストアを出店する予定です。

将来的には、店舗での商品販売も進めていきたいと考えています。大丸有エリア内には、アパレルショップが数店舗ありますので、その一部の陳列棚をお借りして、商品展開していくことも目指してまいります。バッグや名刺入れ、ネクタイのほか、コートとスカートに関しては、受注販売を行う予定です。購入を希望される方には、サイズ等をおうかがいした上で、職人さんが一点ずつ手作業で縫製したものを、後日郵送するという流れになります。長谷川が着用しているスカートも、より多くの方に着用して頂きやすいようデザインチェンジを加えて登場予定です。
※4
2019年から三菱地所、リガーレ、一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会が実施している、都心の広場・公園的空間の在り方を検証する社会実験

環境に配慮した商品をMICEの参加者にも届けていきたい

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今後予定しているプロジェクトなどがありましたらお聞かせください。
長谷川
まちをつなぐアップサイクルコミュニティを作っていきたいと考えています。この取り組みを通じて私たちが目指すのは、Ligarettaのグッズに込められたまちづくりのストーリーをお客様に感じていただき、エリアへの愛着を持っていただくことです。大丸有エリア内の就業者や学生さん、障がいをお持ちの方、クリエイターなど、多様な方々と一緒にまちを歩き、アップサイクルに利用できそうな素材を発掘するフィールドワークや商品企画を検討しています。
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Ligarettaを成長させることで、「サステナブルなまち、大丸有」といったメッセージを国内外に広く発信できるとともに、MICE誘致のアピールポイントにもつながると想像します。最後に、MICEとの連動を視野に入れたLigarettaの将来的なビジョンについてお聞かせください。
長谷川
ありがたいことに、大丸有エリアでMICEを開催する企業や団体が、会場の利用と併せて、開催期間中にバナーフラッグを掲出されるケースが非常に増えてきています。主催者の方から、「掲出を終えたバナーフラッグをアップサイクルしたい」というお声をいただく機会も少しずつ増えており、こうした流れが定着していくことを願っています。MICEのバナーフラッグを使ったネックストラップを、次年度の来場者にノベルティとしてお配りするという風に、今後はMICEと連動した形での商品展開もご提案していきたいと考えています。
大谷
MICEは、そのまちならではの施設を会場とし、参加者にまちの魅力も知ってもらいながら開催するビジネスイベントです。当然ながら、主催者の方は参加者の心に残るものにしたいと考えていらっしゃるので、環境に配慮し、まちの資源を活用して作ったLigarettaのグッズは特別感を添えることができると思います。参加者の方にとっては、グッズを見ると大丸有エリアを思い出すというような、一生の記念にもなるかもしれません。MICEの参加者にもうまく届けられるように、努めていきたいと思います。
長谷川
また、都市型サーキュラーエコノミー(※5)の実現も目指しています。素材の段階からリサイクルや再利用がしやすい設計にすることで、廃棄物と新しい資源の利用を最小限にすると共に、デザインの段階からリペアしやすい構造にし、素材の寿命をさらに伸ばすことにも取り組んでいきたいと思っています。
サーキュラーエコノミーは、日本では比較的新しい概念ですので、私たちも日々学びながら取り組んでいる状況であり、クリアすべき課題は多くありますが、環境配慮への取り組みを皆さんに知っていただくためには、実装していくことが大事だと思うので、これからも一歩ずつできることを進めて活動を続けていきたいです。

まちの人々とのつながりや協力によってLigarettaが生まれたように、これからも関わってくださる多様な方と一緒に、このブランドを育てていきたいと思っています。サステナビリティというと、敷居が高く感じる方も少なくありませんが、Ligarettaの活動に興味を持ってくださる方、商品を手にしてくださる方々が、自分のできる範囲で廃棄物を最小限に抑えるなど、少しでも「自分ごと」になるきっかけにつながれば、これほど嬉しいことはありません。
※5
環境に配慮した持続可能性の高い経済システムとして注目される循環型経済